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2022.09.07

お知らせ

【動画&レポート公開】#47 いまこそマイナンバーだ<データ社会における競争力研究会調査報告>(8/5開催)

2022年8月5(金)に開催されました「GLOCOM六本木会議オンライン#47 いまこそマイナンバーだ」のアーカイブ動画と発表資料(データ社会における競争力研究会調査報告)、レポートを公開いたします。

発表資料

◆「今こそマイナンバーだ」(PPT形式/田中辰雄氏発表資料)

◆「マイナンバーカード採用行動における心理的要因の実証分析:有効な普及促進施策の検討」(PDF形式/山口真一氏 発表資料)

 

イベントレポート

概要

 マイナンバー制度は長らくプライバシー懸念派から評判が悪く、カードの普及が進まなかった。しかし、いまや状況は大きく変わりつつある。マイナポイントなどの促進策により、施策前に比べて普及率は2倍以上となった。個人IDが無いために新型コロナ対策の給付金の支給が迅速にできなかったことも、マイナンバー制度の有用性を人々に意識させている。実際、制度導入時点から比較すると、人々のマイナンバー制度に対する関心は、警戒感から利活用に移っている。このようにマイナンバーカードを利活用する条件はそろいつつある。今回の会議ではここまでのカード普及施策を振り返るとともに、これから先にどう普及と利活用を進めるかを今春おこなったアンケート調査をもとに議論した。普及率を100%にすることは難しいが、取得手続きの簡素化や不正の厳罰化を通じてカード取得に前向きな人々を取り込むことができれば、普及率は65%に達する。そこからさらに普及率を伸ばすには、マイナンバーカードを用いて取引の手間を省けるようにするなどの社会的影響を高める施策が有効であると考えられる。利活用の方向性としては、特に、パスポートや年金、給付金手続きの簡素化に用いられることが望まれている。

1. 田中辰雄氏による発表

◇今こそマイナンバーだ
 マイナンバーは登場時より、プライバシーへの心配などから批判にさらされてきたが、2022年6月末にはマイナンバーカードの普及率は45.3%に達し、どのように利用を進めていくかを議論する段階にきている。
 そこで、本研究では①何が普及を促し、何が普及を妨げているか、②さらに普及を進めるにはどうしたら良いのか、③マイナンバー利用をどのような方向性で進めていくべきか、の3つをリサーチクエスチョンとして2022年2月にウェブモニター調査を行った。
 まずマイナンバーカードの取得状況を見ると、総務省発表の普及率をもとにサンプリング・バイアスの調整を行ったところ、未取得者(取得していないが、今後取得する予定の人)が20%、反取得者(取得していないし、今後も取得する予定はない)が29.1%であることがわかった。
 1カ月あたりのマイナンバーカード取得者数は、マイナポイントが導入された2020年後半から加速している。実際に、マイナンバーカード取得理由についてのアンケート結果を見るとマイナポイントと答えた人が最も多く、有効な施策であったと言える。ただし、今後の施策を考えるにあたっては、金銭誘因で動く層をすでに吸収しきった可能性があることに注意しなければならない。

 次にマイナンバー制度への評価を見る。マイナンバー制度のメリットとデメリットを述べ、そう思うか思わないかを4段階で聞いたところ、デメリットを不安に感じる人の方が多く、特にはっきりした意見(「そう思う」を選ぶ人の数)だけを見ると1.5倍程度の差があった。ただし、同じ質問が含まれる2015年の調査と比較すると、肯定的評価は上昇し、否定的評価は減少しているため、7年間で制度への理解は進んだと言ってよい。
 調査データをもとに、マイナンバーカード取得を促す要因をロジット回帰によって推定したところ、住民票や身分証の代わりに使えるなどの具体的でわかりやすい利点を感じると取得が増えること、政府管理への不信は取得の制約になっていないこと、詐欺、個人情報、監視の不安が取得の足かせになっており、特に監視されているように感じると取得しないことが明らかになった。
 制度評価とカードの取得には相互作用があると考えられるため、カードの取得によって制度への理解が進んだり、不安が増進したりするというカード取得の効果(逆因果)が発生しているかどうかを見るために、本人の意思とは無関係に半ば強制的にカード取得が行われたケースを見る。仕事の必要などで強制的にカード取得が行われた場合でも肯定的評価をする人が多ければ、逆因果の存在が示唆される。実際に調べてみると、強制的にカードを取得した人でも肯定的評価をする人が多いので、カード取得によって制度評価が肯定的になっていると考えられる。
 最後に、今後のカード普及策においてどのようなものが有効であるかを考えるために、コンジョイント分析を行い、各要因の効用をポイントの支払額に換算した。ここで用いたカード取得の要因(属性)は、①年金やコロナ給付金等の確実な受取、病歴に応じた医療など追加メリットが得られる、②カード取得手続きが1回窓口に行くだけで済む、③スマートフォンのアプリ(スマホアプリ)になる、④役所などの悪用者には懲役刑を科す、⑤カードを取得すると5,000円分(or 10,000円分)の電子マネーがもらえる、の5つである。
 マイナンバーカード非取得者全体を分析対象とした結果を見ると、②手続き1回化と④厳罰化が有効であり、それぞれ3,600円分、1,600円分の効果が見られた。①追加便益(年金、給付金、病歴)はややマイナスであり、③スマホアプリ化にいたっては2,600円分のマイナスであった。これら二つは促進要因になっていない。また、取得しないことの効用が13,500円分であり、有効な施策をすべてあつめてもカード取得には至らないという結果になっている。
 しかしこれは、回答者のなかにそもそも取得する気のない反取得者がいるからである。カード非取得者を未取得者と反取得者に分けた分析結果を見てみると、基本的な傾向は全体結果と同じだが、カードを取得しないことの効用は、未取得者が6,500円、反取得者が20,900円と、大きな違いがあった。反取得者のカードを持ちたくない気持ちは強烈である。金銭的に評価すると、未取得者は②手続き1回化と④厳罰化に加えて1,500円程度の金銭誘因があれば取得するが、反取得者は②手続き1回化と④厳罰化に加えて15,000円の金銭誘因がなければ取得しないことを意味し、反取得者にカードを取得してもらうことは困難であることがわかる。
 マイナンバーを行政機関同士や、銀行・病院と連携利用することに対する姿勢を見ても、カード取得者、未取得者は7~8割が連携利用に賛成しているのに対して反取得者は反対多数であり、否定的である。なお、マイナンバーの連携利用としては①戸籍謄本などを準備しなくてもパスポートや年金の申請等ができるようにすること、②災害時の支援金や給付金(コロナ給付金等)を素早く配ること、③年金事務が書類なしで1か所で終わり、手続きのし忘れによる給付漏れをなくすこと、の3つが特に実現してほしい施策として選ばれている。

2. 山口真一氏による発表

◇マイナンバーカード採用行動における心理的要因の実証分析:有効な普及促進施策の検討
 マイナンバーカードは、国民にとっては各種行政手続きのオンライン化、身分証明書として使える、コンビニなどで各種証明書が発行できるなどのメリットがあり、国・自治体にとっては行政手続きのオンライン化を実現できる、行政の業務効率化による国民サービスの充実、異なる行政機関間での情報連携といったメリットのあるものであり、この普及は政府にとって喫緊の課題である。
 2019年の経済財政運営と改革の基本方針では、2022年度中にほとんどの住民がマイナンバーカードを保有していることを想定して、としているが、様々な施策が行われて普及率は向上しているものの、目標にはまるで届いておらず、伸び率も鈍化している。今後さらに普及促進するための策を検討することは政策的に極めて重要である。
 マイナンバーカードに関連する研究では、これまでのマイナンバーカード取得促進の政策に効果があったことや、一方でマイナンバーカードをサービスで利用する機会がないことや、監視社会への懸念から普及が進まない、などといったことが示されてきた。
 様々な研究が存在するが、地域の特性やマイナンバーカード関連の特定のサービスに関する分析はあるが、国民目線での新サービス・技術受容に関する様々な要因を俯瞰的に分析した研究が少ないこと、金銭的インセンティブ以外の具体的な施策について、その優先順位を検討できる材料が少ないこと、今後取得を考えている人と、今後も取得を考えていない人の違いに着目した研究が少ないことの3点が課題であり、今後の普及率向上に向けて適切な施策を検討することが困難になっていた。
 そのため、①:現在マイナンバーカードを取得していない人にとって、何が障害になっているのか。②:①は現在取得していないが今後取得を考えている人と、今後も取得を考えていない人でどのように異なるか。③:マイナンバーカードの普及を促進するには、今後どのような施策をするのが有効か。という3つのリサーチクエスチョンを立てて研究を行った。使用したデータは田中氏による発表のものと同一のウェブモニター調査である。
 今回の研究では以下にあげる9つの心理変数を主に用いて多項ロジットモデルで分析する。その9つの心理変数とは、①点数が高いほどプライバシーに対する懸念(敏感さ)が大きいことを表す「プライバシー懸念」、②点数が高いほど政府・自治体の個人情報取り扱いを信頼していることを表す「プライバシー信頼」、③点数が高いほどマイナンバーカード申請時のエフォートを大きく感じていることを表す「イニシャルエフォート」、④点数が高いほどマイナンバーカードの有用性を高く評価していることを表す「パフォーマンス評価」、⑤点数が高いほどマイナンバーカードに関する社会的影響が大きいことを表す「社会的影響」、⑥点数が高いほどマイナンバーカードを不快に感じていることを表す「不快感」、⑦点数が高いほどITに対する革新性が高いことを表す「ITに対する革新性」、⑧点数が高いほどポイントに対するこだわりが強いことを表す「ポイント獲得意欲」、⑨点数が高いほど日本政府を信頼していることを表す「政府信頼度」で構成されている。

 未取得者についての推定結果をまとめると、イニシャルエフォートへの反応が非常に大きく、取得の面倒さが大きな障害となっている。ポイントに対する反応は既取得者に比べて低い。また、プライバシー懸念は高く、自身のプライバシーの扱いについて敏感である。さらに、パフォーマンス評価は予想に反して高く、マイナンバーカードの有用性認識は十分に高い一方で、イニシャルエフォートなど他の要因から取得していないといえる。ただし、未取得者のパフォーマンス評価が高い要因は、この結果が既取得者と比較して標準化したものであるためと考えられる。既取得者はポイントを理由とする取得が多く(61.3%)、有用性を評価して取得した人が少ないからである。
 また、反取得者については、イニシャルエフォートと社会的影響の絶対値が非常に大きく、取得の面倒さと周囲からの取得のプレッシャー(レコメンド)がないことが大きく影響を与えている。ポイントに対する反応は既取得者に比べて低く、プライバシー懸念が高い。これらは未取得者と同じ傾向である。ITに後ろ向き、政府を信頼していない、マイナンバーカードの有用性(パフォーマンス)認識が低い、といった傾向がある。
 以上の結果を踏まえると、3つの政策的含意を導ける。
 第1に、金銭的インセンティブ以外の施策の検討が必要である。未だマイナンバーカードを取得していない人は、金銭的インセンティブへの反応が鈍い人が多く、効率が悪くなっているため、大量のポイントをばら撒く施策では今後普及率向上に限界がある。
 2つ目に、申請手続きの簡略化及びその周知と、個人情報の厳格な取り扱いが求められること。取得予定があるかどうかに関わらず、イニシャルエフォートはマイナンバーカード取得行動に大きな影響を与えていた。商業施設等での出張申請受付、交付窓口や人員の増強などを実施するほか、手続きそのもののさらなる簡略化が有効といえる。同様に、プライバシー懸念も取得予定があるかどうかに関わらず有意であったため、個人情報を厳格に取り扱い、問題を起こさないことが非常に重要である。
 3つ目に、仕事やプライベートでマイナンバーカードが必要なシーンを増やすことが有効である。一定数存在する反取得者まで含めて普及させたい場合に効果的なのは、社会的影響を高めることである。例えば取引でマイナンバーカードを使うことでより手間が省けるシーンを増やしたり、私生活における多くの申請をマイナンバーカード1枚でできるようにしたりするといったことである。また、家族がマイナンバーカードを持っていると利益を得られるような設計も効果的だと考えられる。パフォーマンス評価や政府信頼度も有意だったため、丁寧なコミュニケーションによって政府信頼度を高めることも求められる。
 何よりも重要なことは、マーケティング的な視点をもって、エビデンスベースで普及促進施策を考えることである。人々の行動という観点から実証分析によって施策の効果検証を行い、定量的な結果から先を考えていく必要がある。

 

3. 質疑応答・ディスカッション

前川氏:3割ほどいる反取得者に対してどの程度マイナンバーカードを普及できるか。
田中氏:すぐに答えることはできないが、絶対にマイナンバーカードを利用しないという人が一定数残るのは仕方がないと考えている。2割強いる未取得者にマイナンバーカードを行き渡らせることで全体の保有率を65%ほどにできるので、まずはそのような状況を作ることが重要である。そうすることで問題がないことや利便性の高さへの理解を浸透させ、社会的に信頼のおける人が使っているから自分も使う、というように広めていくことがシナリオとして考えられる。
山口氏:未取得者への普及が先決であることは間違いない。そのためには申請手続きが簡単になったことを告知するべき。残りの約30%の人たちに対して普及させるには、今回の研究で最も大きな因子であった社会的影響を高めることが重要である。例えば、会社勤めの人は会社から取得をするように言われることがあるが、そのようなことがない自営業の人は取得する予定がない割合が高い。取引においてマイナンバーカードを利用すると便利な場面を作るなどして取得を促進していけると良い。

山口氏:出生と同時にマイナンバーカードを発行してしまうことも考えられるのではないか。
前川氏:原則配布にして、不要なら返納するという仕組みならば良いのではないか。
田中氏:利便性が上がっていけば良いが、現状では「コンビニで住民票を発行できるカード」という程度の認識であり、価値がわからないという点で反発が多い。

前川氏:マイナンバーカードのCMは機能していたかという質問があるが、現状を見るとさほど効果はなかったと考えられるだろう。
田中氏:CMを利用するのであれば、現状なら取得手続きが劇的に簡単になったことを前面に押し出すのが良い。

― マイナンバーカードを持っていないとデメリットがあるような形にするのはどうか。
田中氏:持っていないことの直接的なデメリットを設けることは考え難い。持っていることのメリットが向上することで相対的なデメリットが生まれるということならば考えられる。

― マイナンバーカードを作ったが、身分証明書として使おうとすると拒否されることが多い。
山口氏:以前にマイナンバーカードを身分証代わりに使うことへの反発があったことに起因していると考えられる。解決は難しいが、マイナンバーカードの安全性や、マイナンバーとマイナンバーカードの関係性を啓発していくことが重要になる。

執筆:田邊新之助(GLOCOMリサーチアシスタント)

 

登壇者プロフィール

田中 辰雄(慶應義塾大学経済学部 教授/国際大学GLOCOM 主幹研究員)
1957年、東京都に生まれる。東京大学大学院経済学研究科単位取得退学。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター研究員、コロンビア大学客員研究員を経て、現在、慶應義塾大学経済学部教授。専攻は計量経済学。 主要著作・論文『ネット炎上の研究』(共著、勁草書房、2016年)、『ネットは社会を分断しない』(共著、角川新書、2019年)、「個人情報保護利活用仲介機構の構想 ─保護と利活用をともに実現するための提案」(情報通信学会誌、2021年)、『ネット分断の処方箋ーネットの問題は解決できる』(勁草書房、2022年)ほか。

山口 真一(国際大学GLOCOM 准教授・主幹研究員)
1986年生まれ。博士(経済学・慶應義塾大学)。2020年より現職。専門は計量経済学、ネットメディア論、情報経済論等。NHKや日本経済新聞などメディアにも多数出演・掲載。KDDI Foundation Award貢献賞、組織学会高宮賞、情報通信学会論文賞、電気通信普及財団賞を受賞。主な著作は『ソーシャルメディア解体全書』(勁草書房)、『正義を振りかざす「極端な人」の正体』(光文社)、『ネット炎上の研究』(勁草書房)など。他に、東京大学客員連携研究員、シエンプレ株式会社顧問、総務省・厚労省の検討会委員などを務める。

前川徹(東京通信大学 情報マネジメント学部 教授/GLOCOM主幹研究員
1978年通商産業省入省、機械情報産業局情報政策企画室長、JETRO NYセンター産業用電子機器部長、IPAセキュリティセンター所長、早稲田大学大学院国際情報通信研究科客員教授(専任扱い)、富士通総研経済研究所主任研究員、サイバー大学IT総合学部教授等を経て、2018年4月から東京通信大学情報マネジメント学部教授、この間、一般社団法人コンピュータソフトウェア協会専務理事、国際大学GLOCOM所長などを兼務。

 

※本セッションは、2022年8月5日(金)Zoomウェビナー形式で、事前参加登録をしたリモート参加者約70名にライブ配信されました。

GLOCOM六本木会議オンラインでは、今後も継続して、旬なテーマをピックアップし、セッションを開催してまいります。各回のセッションの収録動画は、Youtubeチャンネルにアップし、アーカイブ化することで、いつでもご覧いただけます。
また、GLOCOM六本木会議ウェブサイト(https://roppongi-kaigi.org/)より、事前参加登録をされた皆さまには、Zoomウェビナーを介してライブでもご視聴いただけます。