2022.11.13
お知らせ
2022年10月17(月)に開催されました「GLOCOM六本木会議オンライン#50 共存とDX、デジタル田園都市国家構想について」のアーカイブ動画とレポートを公開いたします。
人口減少下の経済においては、協調領域で様々な取組をシェアするという発想が重要になる。今回の講演では、その展望を述べるとともに、デジタル田園都市国家の成功のための鍵や、データの重要性などについても紹介し、解説した。人口減少局面での供給が需要に合わせる経済では、需給をリアルタイムで把握し、供給側の意思の確認を待たずに先にものやサービスを動かす、共助のデジタル基盤が必ず必要となる。デジタル田園都市国家構想は、地域の分配文化に抗って都市文化を立て直して人口減少下で求められる共助のデジタル基盤を作り、それをソーシャルベンチャーやソーシャルインパクトと結び付けてスタートアップ・エコシステムを形成することを目指す。そうすることで、人口減少下の日本経済における生産性の維持・向上につながっていくだろう。
◇デジタルから考えるデジ田総合戦略
人口減少は実はデジタル投資と深くかかわっている。日本の人口は2008年にピークを迎え、2100年に向けて5000万人減少するというのが現在の自然体での予測値である。人口減少に伴って産業の需要量が減少する際、供給量も減ることになるが、ここで問題が起こる。たとえばあるエリアにガソリンスタンドが4つあるとき、最適な数が3つだとわかっていても、競争の中ではなかなか3つに減ることがない。これから数十年にわたって、日本のありとあらゆる産業でこのような現象が起きることが予想され、どのように産業構造を変えていくか考える必要がある。
人口増加局面では、バス停に来るバスを顧客が待つなど、需要が供給に合わせることになる。しかし、人口減少局面では、バスが顧客の都合に合わせて動くなど、供給が需要に合わせて動くことになる。その実現には、需給をリアルタイムで把握し、供給側の意思の確認を待たずに先にものやサービスを動かす、デジタル基盤が必ず必要となる。
人口増加局面では、市場が拡大するため各事業者がバラバラにデジタル投資を行ってもある程度投資を回収できるので、各事業者が個別に投資を進めることができるが、人口減少局面では、市場は縮小するため各事業者がバラバラにデジタル投資を行っても全員が投資を回収できない恐れがある。また、多数の事業者が使うデータ連携基盤などには公的部門は支援を入れにくく、共同で投資を行う共助のビジネスモデルが必要になってくる。日本の就業人口の7割がサービス業に従事している現在では、共通のデジタル基盤を作ることは単に地方創生への寄与にとどまらず、日本経済全体の生産性を向上させることにつながる。
現状では、プロジェクトは多数組成され、補助制度も充実しているが、事前に人を集められないことと、外からの投資を集められず、事業化できないという2つの問題がある。
事業化の鍵は都会の若者の閉塞感にある。都会や大企業では自分の力試しができるような場が少なく、自由で活力ある暮らしとビジネスの実践の場を地域に実現することで、地域に人材を呼び込むことができる。
現状のプロジェクトにはガバナンスとディスクロージャーとファイナンスが欠けており、特に最大の問題は事業に対する無限責任を負うGP(General Partner)がいないことにある。有限責任を持つLP(Limited Partner)による地方への投資は拡大しているが、各事業のコアを担うGPの不在によりガバナンスの構造ができない。GP不在の要因は引き受けることのメリットがないことにあり、GPを引き受ける構造を作る必要がある。
もう1つの問題として、個別事業とエリア全体の戦略がリンクしていないことがある。これまではこれらがばらばらでも収益をあげられていたが、これからの人口が減少していく社会では、個別事業とエリア全体の戦略をリンクさせ、共助の投資をしていかなければ生産性を維持できない。戦略のリンクにあたっては、地域で暮らす市民の声をまとめたソーシャルインパクトが指針を定める。このように個別事業とエリアがリンクし、市民を巻き込んで次から次へと新しい事業を生み出す、スタートアップ・エコシステムの形成がデジ田総合戦略の最終的なゴールだと考えられる。
エコシステムの形成にあたっては、以下で説明する逆T字モデルが有効である。最初に取り組む鍵となる事業を1つ選定する。同時にマイナンバーを活用したデジタル基盤を整備して効果的に活用し、地元資源を活用した他のサービスへと取組を徐々に広げていくと良い。鍵となる事業は、地域内の分配圧力に負けないようにすることが重要であるため、複数よりも1つである方が良く、責任者の特定と内外の支援体制作りを行い、必ず成功させる覚悟で支援を行うことが求められる。
デジタル田園都市国家構想は、いかに地域の分配文化に抗って都市文化を立て直し、人口減少の状況下で求められる共助のデジタル基盤をどのように作り、それをソーシャルベンチャーやソーシャルインパクトと結び付けてどのように新しい日本経済の形を作っていくかということを語らなければならない。
前川氏:逆T字モデルを実現している、または実現しようとしている自治体は実際にあるのか。
村上氏:いくつかある。例えば北海道更別村では、月額3,980円で健康ケアまで含めた様々な生活サービスを包括的に提供する事業を創設した。デジタル公民館を整備し、地域の生活
者の交流拠点も整備している。
前川氏:このような取り組みには、外からの働きかけではなく地域内からの活動が必要になってくるか。
村上氏:経験的に、うまくいっている自治体には良い首長と面白い担当、引き受けたGPが揃っている。
前川氏:市民の声をまとめるのは難しいと思うが、人望のある人が中心になって活動するということになるのか。
村上氏:Well-beingの指標やその使い方を自治体に提供し、指標を用いた市民との対話を行ってもらうようにしている。
– 夏のDigi田甲子園を見たが、大企業の関与が多く、従来の個別の補助金プロジェクトとあまり変わらず、スケールしないように見える。デジタル庁ではどのように受け止められているのか。
村上氏:そのような見え方になるのは仕方ないが、問題は自治体にGPを支える構造がないことにある。横展開を進めるには引き受ける側の耐性が必要。
前川氏:地域ごとに事情が異なるので個別のプロジェクトを複数の地域で同じように行うのは難しいのではないか。
村上氏:横展開できている例は複数ある。きちんと煮詰めたビジネスモジュールには横展開するポテンシャルがある。
– デジ田交付金の交付対象が自治体であることは最善の方法なのか、それともやむを得ない制約条件なのか。
村上氏:やむを得ない制約条件である。自治体の交付金という形を取らないと、これだけの金額規模の制度を作ることができない。
– 都会の疲弊した若者を、自分の地元ではない地方に結び付けて、GPになってもらう流れはどうしたら加速するか。
村上氏:地方に「出番」と「居場所」を作っていくことが重要。地域の中でいろいろな新しいチャレンジをたくさん作って人を呼び込み、その中から鍵となる事業を選ぶと良い。
執筆:田邊新之助(GLOCOMリサーチアシスタント)
村上敬亮(デジタル庁統括官 国民向けサービスグループ グループ長)
1967年、東京都出身。1990年、通商産業省入省。IT政策、クールジャパン戦略の立ち上げ、COP15,16等の温暖化国際交渉、再エネの固定価格買取制度創設等に従事。2014年より内閣官房・内閣府で、地方創生業務に従事し2020年7月より中小企業庁経営支援部長。2021年7月より内閣官房IT総合戦略室内閣審議官、9月より現職。
前川徹(東京通信大学 情報マネジメント学部 教授/GLOCOM主幹研究員
1978年通商産業省入省、機械情報産業局情報政策企画室長、JETRO NYセンター産業用電子機器部長、IPAセキュリティセンター所長、早稲田大学大学院国際情報通信研究科客員教授(専任扱い)、富士通総研経済研究所主任研究員、サイバー大学IT総合学部教授等を経て、2018年4月から東京通信大学情報マネジメント学部教授、この間、一般社団法人コンピュータソフトウェア協会専務理事、国際大学GLOCOM所長などを兼務。
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