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2022.07.22

お知らせ

【動画&レポート公開】#42 Splinternet スプリンターネット – インターネットと国際政治の関係(6/7開催)

2022年6月7日(火)に開催されました「GLOCOM六本木会議オンライン#42 Splinternet スプリンターネット – インターネットと国際政治の関係(ロシアのウクライナ侵攻によって顕在化する問題シリーズ)」の収録動画とレポートを公開いたします。

イベントレポート

概要

 2022年4月2日、”Defend the Internet, Stop the Splinternet”と題した声明が国際的な非営利組織ISOC(Internet Society)から発表された。これは、2022年2月28日にウクライナ政府がロシアのccTLDの使⽤停⽌、これらドメインに関わるSSL証明書の無効化、DNSルートサーバの無効化などをICANNに要請したこと、これに対して2022年3月2日に、ICANNが「インターネットに関する技術調整は、政治利用されるべきではなく、また、正常機能を担保するためであり、機能を止めるためではないこと」などを理由にこれらの要請を全て断るという一連の流れを受けたものである。今回の六本木会議オンラインは、冒頭のISOC声明中にあるSplinternetという単語に注目し、その意味や背景について議論が行われた。インターネットは技術的には世界中と通信することを前提としているため、簡単に分割されることはないが、政治的な見方をすると、すでにいくつかの形に分割されているとの考え方もある。インターネットコミュニティは、今後予想される国際政治の圧力に対抗する術を身に付けなければならない。また、インターネット上の分割を防ぐためには、何のためにどのように分割されるのかを分析していく必要がある。

1. 実積寿也氏による論点提示


◇Splinternet – インターネットと国際政治の関係
 Splinternetとは、私たちが使っているオープンでグローバルに接続されたインターネットが、政府や企業によってコントロールされた断片的なネットワークの集合体に分裂してしまうという考えのことである。最も有名な例として、中国の“グレート・ファイアウォール”が挙げられる。
 ウクライナ当局が、インターネットの運営を担う重要な組織であるICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)に対し、全世界のネットワークからロシアのサイトを切断するように求めていることがRolling Stoneの取材 で明らかになった。ICANNはこの申し出を却下したが、こうした事例を受けて、今回の六本木会議オンラインのテーマ設定に至った。
 2022年4月には、未来のインターネットに関する宣言が発表され、多くの国が賛同している。その中では、グローバルなインターネットの維持を原則の1つとしていて、ウクライナが求めたようなインターネットから特定の国を分離するといったことはその原則から外れることになる。
 Splinternetは経済活動へのインパクトも大きい。Statista によると、ウクライナ侵攻以来、3月まででロシアで約12億ドルのコストがインターネット遮断によって発生しているとされている。また、インターネットを1年間完全に遮断すると、ロシアでは10%、中国では25%、日本では20%程度のGDPが失われるという試算 がある。
 Splinternetの性質も、特定の国がほかの国から影響を遮断するという伝統的な形から、世界から特定の国を排除するという新しい形へ変化しつつある。この点についても是非意見をお伺いしたい。

 

2. 前村昌紀氏による発表


◇グローバルインターネットの運営調整の立場から
 インターネットの運営調整とは、ここでは、回線や衛星といった通信のために必要な物理的な設備に対して、通信制御のための通信プロトコルや、ネットワークの中で自分と相手を識別する識別子を定義することで、意味ある情報を流せるようにすることを指す。ICANNは識別子全体の台帳管理を担い、RIPE NCCは欧州と中東のIPアドレスの管理を行っている。
 ウクライナ政府は、ICANNに対して、ロシアのccTLDの無効化、ccTLDに対するSSL証明書の無効化、ロシアに設置されたICANN運営ルートサーバの停止を求めた。それに対し、ICANNはインターネットが政治利用されないために活動していること、インターネットは脱中央集権化システムであるため誰か1人が止められるような構造になっていないこと、企業として一方的に切断することを認めるポリシーが存在しないという理由で要請を却下 している。また、ウクライナ政府はRIPE NCCに対しても、上記3項目に加えてロシアのRIPE NCC会員のIPアドレス使用権取消を求めた。これに対してRIPE NCCはIPアドレスの利用権の取消を行う権能を持たず、ロシアを止めることが全インターネットに影響しうるため、要請には応じられないが、ウクライナの会員に対するサービス継続には最大限配慮するとの回答 をした。
 上記の事例からわかるように、ICANNとRIPE NCCはいずれも政治的に独立している。いずれも非営利法人であり、コミュニティ会議体のボトムアップな検討で管理方針を制定しており、一国政府の発言で変わるような体制にはなっていない。
 Splinternetはなぜいけないのか。Internet SocietyのCEO、Andrew Sullivanのステートメント では、インターネットは復元性が高く、簡単に遮断できないこと、インターネット上のサービスは世界中との通信を前提にしているため「ローカルインターネット」はインターネットの否定であること、偽情報を防げても真実も届かなくなるといったことを根拠としている。
 実際に、ウクライナは攻撃を受けることで壊滅的にインターネットが使えなくなったということはなく、多少の被害はあるが動いているといった状況である。これは、非中央集権化されているという特性により、インターネットが粘り腰に動いているためだと指摘 されている。
 インターネットの基盤のコミュニティは、経済社会の基盤としてのインターネットを作るというところにこだわりを持っていて、それはそもそも分断されるべきではないという考え方を強く持っていると考えられる。一方で、ITU憲章 の35条によると、国は通信を止めても良いことになっている点には注意が必要である。

 

3. 小宮山功一朗氏による発表


◇サイバー空間はいくつに分割されるか?
 中国政府が太平洋横断する海底ケーブルを引こうとした際に他国の介入により別のルートでケーブルを引いた例や、ウクライナ侵攻を受けて多くの企業がロシアでの製品・サービス提供を停止した例のように、One World, One Internetという主張は説得力を欠いてきている。そのような前提の下で、インターネットがどのように分割されるかを比較検討する。
 1つには、Splinternetは部分的にあったとしてもこれ以上進まないという考え方がある。世界中で同じ規範同じルールのもとでインターネットを運用している以上、インターネットは分割されないとして、特に技術者コミュニティの間で根強く支持されている。
 国際政治学者の場合だと、アメリカと中国あるいは西側と東側にすでに分割されていると考える。主に米国や西側が危機意識を高めている理由の1つとしては経済的にも技術的にも政治的にも台頭している中国の力への警戒感が大きい。この2分割の考え方を取るとき、日本人として考えるべきは、どちら側につくのかということと、ついた側を勝たせるにはどうしたら良いのかということになる。
 また、同じ2分割の考え方でも、米国と中国の対決ではなくて国家とビッグテックの戦いだとするものもある。インターネットが普及したことによって人類史上でも類を見ないレベルでの富の集中が起こっているため、力を付けたビッグテックと国家が真剣に競争を始めるという考え方には一定の説得力がある。
 マクロン仏大統領や、何人かの思想家や学者は、アメリカと中国と欧州の3分割になると考えている。我々は欧米と言って一口に語りがちだが、欧州はプライバシー保護などの分野でアメリカとは決定的にスタンスが違い、プライバシーや思想の自由を重視する欧州型のインターネットが求められていると考えられる。
 もう1つの3分割の考え方として、民主主義国家と権威主義国家とビッグテックという構図がある。ファーウェイと中国政府、マイクロソフトやアマゾンと米国政府を一体のものとしがちだが、ビッグテックにはグローバリゼーションを進めるという独自の論理があり、民主主義国家、権威主義的国家とそれぞれ相容れない3つの価値観を持っていると考えられる。
 最後に、シリコンバレー、ワシントンD.C.、ブリュッセル、北京の4分割だとする考え方もある。アメリカも2つに分かれていて、シリコンバレーとワシントンD.C.ではやっていることも追い求めているものも違い、シリコンバレーは非中央集権で相互接続性を重視するリベラルな空気であるのに対して、ワシントンD.C.はマーケットに委ね、独占を許容するコマーシャルな目的のために行動している。それぞれの求めるものが違うので、インターネットやサイバー空間も分かれていくと考えられる。

 

3. 質疑応答・ディスカッション

実積氏:インターネットはすでに分割されているという小宮山氏の指摘についてどう考えるか。
前村氏:中国の“グレート・ファイアウォール”のように、情報の流通がすごく制限されている様式のインターネットが存在するので、そういった意味で分割されているということはできるが、その中でも情報はある程度流れるため、分割の定義にもよるのかもしれない。インターネットの精神として、技術の適用は自発的にやるものであり、選択の自由があるとしている。自由な選択の結果ダイバーシティが生まれ豊かになる一方で、競争的な経済活動が生じて、権力の対立、分断を引き起こすこともあるというのは自然なことだと理解している。

実積氏:小宮山氏の想定している分割において、グループ間の関係はどのようになっているイメージか。
小宮山氏:世界が安定するのは勢力が均衡するときだと考えている。サイバー空間が将来均衡するのは民主主義国家と権威主義国家とビッグテックがそれぞれ同じぐらいの影響力を持ってインターネット上のデータにアクセスする力を持っている状態だと想定している。

実積氏:今回の六本木会議オンラインの発案者である水越 氏は、日本のインターネットを支える会社の一員として今までの議論をどう感じたか。
水越氏:戦争状態の国を切り離すということは、分割というよりも分断であり、その議論は受け入れがたいと感じた。一方で、小宮山氏の言うように二極対立や三極対立といった形で安定するという議論は納得感がある。

実積氏:日本企業としてはSplinternetに対してどのように対応するべきか。
水越氏:企業単体として見れば、民主主義国家と権威主義国家とビッグテックの三極対立の、ビッグテックのセクターに入り込みたいという感覚はある。または、自分たちのマーケットが民主主義国家であるのでそちら側に行くということになるが、日本のIT企業には主張するだけの実力が伴っていない。

実積氏:インターネットコミュニティは国際政治の圧力に関して充分に対抗できる実力を持っているか。
前村氏:現在は、各団体にガバメンタルエンゲージメントを担当する人が数人いて、国際機関の動向把握や必要に応じた担当官への働きかけなど、連携して活動している。今すぐに困るようなことはないだろうが、リスクが増大するならば体制増強するなど、経営的観点から対応していく必要がある。

- EUが距離を置きたいと考えているのはUSからではなく、USオリジンであるビッグテックからなのではないか。
小宮山氏:欧州は自分たちの将来にビッグテックが必要だと理解していて、欧州首脳が訪米したらシリコンバレー訪問がセットされているほど重要視しているため、ビッグテックと距離を置きたいとは考えていないと思う。

- 極として考える時にビッグテックは一枚岩と考えて良いか。
小宮山氏:細かな違いはあるが、グローバルにできるだけ広くビジネスをすることに目的があるという点において共通する行動パターンと共通する思想を持っていると考えられる。

実積氏:インターネットが武器として使われるケースがあるとき、インターネットの接続を保護するというのは戦争をしやすい状況を作っているとも言えるが、これについて技術コミュニティはどのように考えていくべきか。
前村氏:サイバーセキュリティを国際的にどう担保していくのかという取り組みはすでに行われてはいるが、まだ物足りない状況であり、これから考えていかなければならない。

- ビッグテックはもはや国家と同じであると認識したほうが良いのではないか。
- サイバー空間は公海に喩えられるか。
小宮山氏:大航海時代の場合に、国家が徐々に海で勢力圏を拡大していったように、新しい分野は、民間の組織が管理や運営をする時期があり、そこから最終的に国家に管理が受け渡されることがある。したがって、どこかの時点でビッグテックが担っている事業を国家に取り戻すという作業が必要になってくるのではないか。

執筆:田邊新之助(GLOCOMリサーチアシスタント)

 

講演者プロフィール

前村 昌紀(一般社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC) インターネット推進部 部長 / 国際大学GLOCCOM客員研究員)
1994年国内大手ISPの立ち上げにネットワークエンジニアとして参加、以降、日本ネットワークオペレーターズグループ(JANOG)立ち上げ、日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)におけるIPアドレス管理方針の検討など、ISPをまたがるインターネットの運営に関与するようになる。2000年からAsia Pacific Network Information Centre (APNIC)理事、2003年から2016年まで同理事会議長。2002年から2006年までJPNICで理事を務めた後、2007年同事務局にIP事業部部長として着任。2009年から現職。2016年からInternet Corporation for Assigned Names and Numbers(ICANN)理事。

小宮山 功一朗(一般社団法人JPCERTコーディネーションセンター 国際部 部長/慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート 客員所員)
専門分野はサイバーセキュリティと安全保障、サイバー空間の規範、インシデント対応組織CSIRTなど。JPCERTコーディネーションセンターの国際部部長として、セキュリティインシデント対応に従事する傍ら、研究を行う。2014-2018年に理事としてFIRST.Orgの活動に参画した。博士(政策・メディア)。

実積 寿也(中央大学総合政策学部教授/国際大学GLOCOM上席客員研究員)
中央大学総合政策学部教授。東京大学法学部卒業、ニューヨーク大学経営大学院修了、早稲田大学大学院国際情報通信研究科博士課程修了。MBA(finance)、博士(国際情報通信学)。郵政省(現・総務省)、コロンビア大学客員研究員、九州大学大学院経済学研究院教授などを経て、2017年より現職。専門は通信政策、通信経済。総務省情報通信政策研究所特別研究員、Global Partnership on Artificial Intelligence専門委員などを務める。令和2年度情報通信月間推進協議会会長表彰「情報通信功績賞」受賞。

 

※本セッションは、2022年6月7日(火)Zoomウェビナー形式で、事前参加登録をしたリモート参加者約80名にライブ配信されました。

GLOCOM六本木会議オンラインでは、今後も継続して、旬なテーマをピックアップし、セッションを開催してまいります。各回のセッションの収録動画は、Youtubeチャンネルにアップし、アーカイブ化することで、いつでもご覧いただけます。
また、GLOCOM六本木会議ウェブサイト(https://roppongi-kaigi.org/)より、事前参加登録をされた皆さまには、Zoomウェビナーを介してライブでもご視聴いただけます。